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きょうだい

きょうだい

※拠点の皆はいわば家族でありチームですが、クライヴとジョシュアの血の繋がりをどう見ているのだろうかと考えたこばなし。メインはジョシュアとミドのやり取り。

ふたりが並んでいると少年期には随分とあった身長の差が縮まっていて。一緒に過ごせることが嬉しいからこそその頃には殆ど他の人には見せなかったちょっとした軽口を叩きあうことも見受けられるようになった。 ジョシュアも意外とここでは冗談を言うんだなとガブが目を丸くしながらジルに語りかけてきたことがあった。外の戦いは過酷で拠点内ではせめて和らぐ時があっても良いのだから。 わしの甥っ子たちは兄上と同じ目をしている、これ以上の喜びはないぞとバイロンが豪快に笑っていて。 ふたりを見ているとはじめてロザリスへ来た時を思い出すの。あの頃の楽しかった思い出の場所はなくなってしまっていてもすぐ取り出せるところにはあるの。別れは告げたけれど思いは残っているとはジル談。 見て見ぬふりを出来ないところも無茶をしようとするのもふたりともそっくりね…こっちの身にもなって欲しいわと、ともすればすぐ飛び出す兄を弟が支えそうした兄弟の姿をタルヤは時にはため息をそしてそっと口角を上げて見守っていて。 ディオンが出ていってから恋多きアスタがロズフィールド兄弟へうっとりとした視線を送るようになった。もっともその対象はまた変わるのであろうが。 ブラックソーン、カローン、オットーとシドと共に拠点を立ち上げる時から居た彼らはジョシュアの兄とはまた異なる端正な顔つきと同じ青い瞳をじっと射抜くようにまず見つめた。 ―確かに似ているな。 そしてクライヴが受け取ったというその身に宿る炎―その意思の強さを見出した。 グツはフェニックスに乗れたあの時が忘れられないらしい。そのことを思い出す度に興奮気味に話しながらもジョシュアが今どういう状況に置かれているのかその重さを受け止め、優しく拠点に迎え入れてくれた。 タブアンドクラウンの彼らはジョシュアの体調のことを常にタルヤとヨーテから聞きながらメニューを考えている。因みに言いつけたことを守らないなら…とタルヤに指示され食堂にはニンジンもぶら下がっている。 彼が眠っている間にクライヴから書物を好み詳しい弟だと聞いていた子どもたちは最初その周りをちょろちょろと。彼がその様子に気づき優しく微笑んで迎え入れてくれてからは。 ちょっとでも時間があると分かるとジョシュアの元へこれを読んで欲しいと押し寄せるようになった。 ヨーテが小さい子たちに手を引かれて連れていかれる主にほっとした表情で見送る姿も見られるようになった。 ヴィヴィアンはさらに情勢や歴史について語れる相手が増えたことを歓迎していて。 ハルポクラテスからもかつての師の教えを受け継げる弟子となれる、疑いようもない素質が彼にはあると高い評価を下された。

(血の繋がりかあ…)

ミドが地下の工房にて設計図とにらめっこしながらぼんやりとふたりのことを考えていた。 自分とシドにとっての繋がりはミスリル含め残された設計図もひっくるめて受け継がれたものすべてだとそう思っている。血が繋がっていなくても自分の才能を見出したのも教えてくれたのも育ての親であるシドだ。そうでなければエンタープライズは完成までの運びとならなかった。シドがミドの手紙を拾って渡した時すごく喜んでいたとクライヴから聞いていた。 ここに保護されて間もない頃みずぼらしかったベアラーの姉妹たちが倉庫係のオルタンスがクライヴに取りに行ってもらうよう依頼していたノースリーチからの布地で見違えるほどの綺麗な服を纏うことになり、血の繋がっている彼女たちの顔がほころびながらジルと楽しくおしゃべりをしていた時にジルとミドも本当の姉妹みたいねと話してくれたことがあった。 母親がおらず、特にきょうだいが欲しいと考えたこともなかったミドはきょとんとし、ジルはというと普段から控えめな彼女はにこりと微笑んだだけでその場は終わった。 ジルも血の繋がったきょうだいはいないのだろうと本人から直接聞いた訳ではないがそうなんだろうなと結論を下していたのでそうしたところでは気が合うのかもしれない。 ミド自身はここの一員となって滞在するようになったのはここ最近で、周りは自分より年が離れた大人か子どもたちで大半が占められており、父さんの仲間なのだとそうした意識で協力してきた。 勿論クライヴや助手たち含めて拠点の皆のことは大好きだ。 クライヴはシドの手紙の中で名前を知り―それまで保護されて来たベアラーたちやオットー含めて設立直後から拠点にいる人々と明らかに異なる綴り方だった、やっと見つけたんだとそう嬉しそうに書いてあった―そして父さんとの約束―マザークリスタル破壊を誓った仲だと初めて対面した時にそう真っ先に語ってくれた。 彼はかつての拠点の墓参りからあれこれ理由をつけて逃げ出したのを問い詰めることはなく。そして父親がこの大陸で生き残った人たちが何とか救われる方法について考えていた計画を胸の内が苦しくなるのを感じながらそれでも彼に吐き出せた時はほっとした。真っ直ぐに見つめてくれたその青い瞳が自分の思いの丈を受け止め背負って前に進んでくれるのだと分かったから。 ミドにとってそうしたクライヴの弟であるジョシュアは不思議な存在だ。 彼が目覚めて拠点の一員となってからクライヴは元々意思が強いとは思っていたが日々さらに増しているように感じる。血の繋がりとはそこまで特別なものなのだろうか。ふたりが男のきょうだいだからそうなるのだろうか。それとももっと別の―。 「ミド。少しいいかな」 「わっ」 急に考えていた相手―ジョシュアが姿を現してきたものだから驚いてちょっと飛び跳ねた。 「いや、すまない。階段上からお邪魔するよと声を掛けて降りて来たのだけど…。相変わらずすごい集中力だね」 自分の助手たちは部品の精製と流通のことでブラックソーンとカローンのところへ出払っていてふたりっきりとなった。 「あー、ごめん。設計や実験に没頭したりするとこうなっちゃうんだ…」 「謝る必要はないよ。僕も本を読んでいると周りの音がまるで耳に入らないからね」 穏やかでそれでいて品位がある笑みだ。クライヴの受け止めてくれているのだと伝わるそれとはまた違う。 「ちょうど良かった。こっちもジョシュアに聞きたいことがあったから…」 不思議に思っていても好感を抱いている相手ではある。…念の為に言っておくとクライヴとジルがお互いに抱いている感情とは違うよ。 ふたりで明るくそして真剣に会話に乗り出した。 ジョシュアの質問はエンタープライズの耐性のことだった。 一度オーディン姿のバルナバスと対峙してからフェニックスのドミナントとして守り徹しエンタープライズ船を守り切ったものの、エンジンにあれ以上負荷をかける訳にはいかない。それにバルナバスの狙いは理と同じくクライヴだ。ドミナントとして力の差がありすぎると痛感した戦いだった。勝算があるとすれば兄のみとなるのだが、その前にジョシュアはジルの気配から気づいたことがある―そのことは当人に聞くとして。 エンジンの設計についてシドから受け継いだ設計図をふたりで眺めて確認し合った。 (あの船…似ていた) アインヘリアルと名付けられていたウォールード王国軍船。父親―シドルファスはかつてウォールード王国の騎士だった。 (小さい頃から空を飛ぶ乗り物作りたいって考えていた) 父親の作るものと教えてもらって作ること…発明が大好きだったから。夢があるし、夢を見ていた。現実は―。 (父さんの夢を人殺しの道具なんかにしちゃいけない) 「…だからこそ、守るって決めたんだ」 言葉に発していないのに、勘づかれたらしい。かつて墓参りから逃げ出した自分をクライヴが後から何も言わなかったように、ジョシュアもまた。 「大丈夫、君や兄さんがシドの想いを受け継いだようにちゃんと伝わっている。ミドがどういう想いでエンタープライズを造ってくれたのか。それが分かっているから僕は海上でバルナバスと戦うと決めたんだ。兄さんに頼まれたからだけじゃない」 「…うん」 シドが話してくれたこと語ってくれたことをひとつひとつよく覚えている。 かつての拠点に向かえば溢れて来て泣いてしまうと、そう思った。思っただけでなく実際にそうなる。泣くな。泣いたって帰って来ない。それよりやるべきことがあるだろ、ミド。 そうやって自分の心を奮い立たせて完成させるって決めたんだから。 「守ってくれて、ありがとう」 クライヴにもそう告げなければ。シドとクライヴが誓った全てのマザークリスタル破壊まであとひとつ。このきょうだいふたりが居なければ今や作戦を立てることも困難なところまで来ている。 ミドのにこりとした笑みに元気が出たみたいで良かったとジョシュアがまた柔らかく微笑み兄さんとの約束を少しでも果たせているのかなと続ける。 「ん?約束って…」 ジョシュアが懐かしむように目を伏せた。 「小さい時は使命だった…同時に僕の願いでもあった。皆を守るって兄さんと約束していたんだ」 「へえ、本当にクライヴと似ているね」 自然と出て来たその言葉からミドはあることにはっと気づいた。

ああ、そういうことなんだ。これなんだ。

血の繋がり以上にふたりに取って大切なこと。きょうだいふたりから生まれたもの。 大切なものを守る、その誓いに忠実であること。 このヴァリスゼアの歴史と行く末を青空が覆われてからは唯一の忠実な証人となった月と同じく。 (父さんが救おうとしたヴァリスゼアだもの) 夢をみて、一度は船で逃げ出そうとさえ考えていた。 でも、彼のことを教えてくれてそうして出会った。そして強固な誓いと血より濃い絆を持つきょうだいがここにいる。 自分にだって教えを乞う子供たちが居る。内なる自分がどうしたいのか、この世界の未来に向けて何を残して託すべきなのか。父さんが自分に託してくれた様に。現実に向き合ってしっかりと考えるのだ。 それが出来るのは他ならない自らの意思だ。

「ところで、ミド。僕に聞きたいことがあるって…」 「あー、いや。話している内にすっきりしたから大丈夫」 「そうか、良かった。気になっているならいつでも聞いてね」 「…じゃあいっこだけ。クライヴとジョシュアって兄弟喧嘩とかしたことある?」 よく父さんとは口喧嘩含めてしていたなあと昔を懐かしむような感じで軽く尋ねると。 「…今すぐ兄さんに問い質したいことがひとつある。返答次第では殴るかも」 予想に反して凄みが増した気配でそう返された。 「な…何で…?」 「それは秘密」

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<p>ジル→クライヴ ※ フェニックスゲートにてあなたは自分がイフリートのドミナントだった—それが現実であると。あなたが自ら真実を受け入れてから分かったことがある。あなたは私がそういう所は昔から変わっていないなと子どもの頃のような笑顔でそう語った。ああ。今の私に子どもの頃の私を見ているのだと。「いいえ…私は変わったわ」あなただって、ずっと。ベアラーとして望まないまま戦いに連れ出される日々だったはず

 
 
 

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