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見守る

・見守る

(バイロン叔父さんメイン、カンベルトリオ) 若者の麗しさとはその力強さ、若盛りだとバイロンは造船に取り組んでいるこのアイアンワークス内、特にミドとガブだ。このふたりの様子から大いに感じていた。

ミドが幾度もありがとうと口にするのはロザリア7大家族のひとつであり、大富豪でもあるバイロン・ロズフィールドの後ろ盾があってこそ商業都市であるカンベルに置いてこうして造船の完成に向けた計画を進めるだけでなく早めることが出来ているからだ。 ヴァリスゼアでこうして大きな船を作り出すの、父さんの夢だったんだと近くの酒場で一緒に食事を取りながらそっと—エールを交わすのはちゃんと全部終わってインビンシブルに帰ってからにしましょうやとガブとの約束の日も楽しみだ—呟いてくれたことがある。 彼女のその様子から兄が亡くなったと報告を受けたあの日を思い出した。 愛おしい甥っ子たちが生きているかも確かめることも出来ず次は首都ロザリスの陥落が知らされ皇国領に移るとロザリアに籍をおく貴族たちに次から次へと要求が送られ課された重税に従うことによって何とかポートイゾルテを含め港町だけの領土とロザリアの他の貴族たちとの大々的なものではないが繋がりは保っていた。 重税を課せられているとはいえ、バイロンの商才は確かなもので。 その才は兄上の統治を支えようと武器と他国に対する流通に関するものから根付いていた。 他国の兵たちと戦うのはその後の商いに響くのでなるべく避け。実際にダルメキアの酒場ではウォールード王国の兵達に取り囲まれようとクライヴへひと任せにし。 見事な剣と足さばきで払いのけてくれた。まあお嬢さんすまんな後片づけは任せたぞと袋一杯に詰まったギル硬貨を引きつった愛想笑いを浮かべたままのウェイトレスの彼女へほいと渡し。 その後バイロン自身はクリスタルを闇取引している野盗崩れや温水の源を荒らすボム系の魔物へ大暴れして活躍したものだ。 愛おしい甥っ子の名を名乗る不埒な輩をこの腕っぷしで館からいったいどれほど追い払ったことか。ダルメキアに来てから己の立場や腕を彼らの為に用いられるのが、とても嬉しい。

本人から聞いた訳でないが、可愛い甥っ子を暗殺部隊から抜け出す切掛けとなった恩人は彼女と血は繋がっていなくとも本当の父親なのだろう。

ミスリル装甲は父さんが残してくれたものなんだ。 この目にしかと焼き付けたぞ。大したものだ。 俺やジル。カローン、ブラックソーンの協力もあってこそだよな。 分かっているよ。助手の皆も。そして、クライヴもね。 おお、君たちがクライヴの傍に居てくれて本当に良かった。感謝するぞ。

ミドが根詰めないように机の上でうつらうつらし始めた彼女へ優しく肩に手を置き。洞窟の側、簡素に備え付けてある寝所へもう今日は眠りなさいと促がし眠たい目を擦りながらふらふらしつつもちゃんと自分の足で部屋に向かった彼女のその背を見送った後。ガブとも話し合った。 「俺はクライヴにザンブレクの奴らから助けてもらったんですよ」 「おお、そうだったのか」 あいつは最初…シドの拠点に来たばかりの時は特に誰かと目を合わせることはなく低い声でちょっと話すくらいで。 俺も家族を奪われてシドに出会ったばかりの頃はああだったから。痛いほどあいつの気持ちは分かった。協力するぜって伝えたらあいつは顔を上げてくれて。火のドミナントを一生懸命探した…あいつの瞳―まなざしが変わったの、俺を助けてキングスフォールから帰って来てからだったとオットーや皆が後になってよく言っていた。ジルが目を覚ましたのも同じくらいで。 それからシドはクライヴとジルを中心に作戦を立て始めたんです。

その直後にザンブレク皇国にとってかつての皇都であったオリフレムに存在していたマザークリスタルドレイクヘッドが破壊され。大罪人シドの名はバイロンにもすぐに知らされた。

ドレイクブレス、ドレイクファングと破壊を成功させバイロンもこれでわしも悪党の名に連なるなと豪快に笑いながら彼らの活動に協力したのだ。

「あいつにも感謝しています。…ひとつだけ気になることを話しておきました」 丸太の上に座り込み完成の目途がついてきたエンタープライズを見上げた後ガブがまっすぐにバイロンへと向き合う。 「何かね」 「ジルと一緒に俺たちの活動に協力するとシドと誓ってくれて。あいつはシドの名を語りながら大罪人としての責任をずっと背負っている。俺たちを率先して引き連れて、守ってくれている」 あいつがいてくれたから、ここまでやって来られた。ガブがそう語り続ける。 俺じゃ無理だった。 軽く頭を振りながら正直にそう吐露してくれて。 「拠点にほとんどいないじゃないかって話したんです。クライヴが俺の働きにたくさん礼を言ってくれた後に。今の俺たちはあいつを中心に回っている。だから—」

—クライヴよ。ロザリアに…兄上の代わりに— “戻る気はないか?”

「…その。上手く言えないけれど、バイロンさんだって本当はずっと会いたかったんですよね…」 それが出来なかったの、俺たちの為だったから。 だから、あの‥‥すみません。

バイロンは腕を組みながら素直に頭を垂れたガブのその様子を真剣に見つめ。 彼が誠実で物事をよく見分けられる青年であると見出した。 ガブに近づき、肩にぽんと手を置いて語りかけてやる。 「わしとて、謝らなければならないのだよ」 「え、どうしてですか」 ガブが顔を上げた。 「ダルメキアにクライヴと共に行く前にわしはお前たちの活動の為にと資金を持ってきただろう」 ウェイドたちを陰から支えてきたのと同じように。 「あ、あれは…いや、物凄くてとても感謝しています!」 大量の木箱に詰まれた2000万ギルなんて、庶民のまた庶民などにそうそう縁などあるわけがない。思わずクライヴへこそこそと美味い酒が飲みたいなんて口にしてしまったなんて到底言えない。 「静かに。ここがバレたりあの娘が起きてしまうのはまずいぞ」 「…失礼しました。でも、バイロンさんが謝る必要は—」 小声になったガブにいや、あるのだよとバイロンはしっかりと頷く。 クライヴと大切な甥っ子の傍で再会してからもずっと支え続けていた彼女から話を聞いた。 ウェイドたちは神皇后の座を得たアナベラの画策によって組織された黒騎士達に対しふたりが来なければ討ち死を覚悟していたと。 陰からとはいえ種火の彼らの活動を見守ってはいたつもりだった。 だが、ウェイドたちには見抜かれていた。アナベラの—あれはもはや獣だと伝えた—圧政が怖くて結局のところ動けていなかったのだと。 生きていた甥っ子をこの目にして…ああ。こみ上げてくるものから己の役割、兄が本来この国に伝えたかったもの。それまで逃げ回っていた現実にもう一度向き合おうと膝を打つかのように立ち上がった。クライヴたちの活動にも資金は必要だと自治領にある屋敷を売り払い彼らの役には立ったはずだ。 同時に再会出来てからというもの、ある願いがバイロンの心の中で燻った。 兄が生きていた頃のあの光景をまた見たい。彼らからクライヴを取り上げようとしたのだ。

“父上が目指した—…人が人でいられる場所を作り出すために” 戻るつもりはないかと真剣に問うとクライヴはそう答えた。

ロザリアはひとりの男が立ち、そして人々が集った国だ。 その精神が失われていく根本的な原因はクリスタルの加護そのものである。このヴァリスゼアにおいて領地の奪い合いとなり各国の戦争の理由となっているものも。 仮にクライヴとこれから再会出来るのかも知れない—ジョシュアが戻ったとしても。 黒の一帯からは逃れられない。ロザリアという国が目指していた人そのものを見つめ人として生きていくのだという志は人が滅んでしまうなら完全に消え失せる。 クライヴの瞳を見つめ返した。兄上と同じなのだな、とその意思をバイロンは受け入れた。 「お主たちの活動にもっと真剣に向き合いたい。あの時はまだそれが足りていなかった」 そうこちらからも素直にガブに伝えると。 「なんか、謝ってばかりなのも変ですよね」 へへっと明るく彼は笑ってくれた。 「ふむ、そうじゃな。すっきりしたところでもうひと踏ん張りするか」 バイロンもエンタープライズを見上げて笑顔を見せる。 「バイロンさん、すごく元気ですよね」 ニカっと白い歯を見せてガブもポンと膝を叩いて立ち上がる。 「君やあの娘のような若者の傍にいると、な。見守っているだけではもったいない。 それにロズフィールド家は元来負けず嫌いだ」 ひとりが生きていて。傍にいると温かい火が灯され炎が沸き起こる。 もう長い間ずっと忘れていたこの熱意。 「あー、あいつを見て来たんで。分かります」 ガブも並んで歩み出し、エンタープライズにまだ必要な作業へアイアンワークスの彼らと共に加わり始めた。

少しだけ開いていた扉からミドがその様子をじっと静かに眺めていて。扉からそっと離れた後は月を見上げ見つめた。

父さん。ヴァリスゼアから逃げ出さなくて良い、よね。 もうすぐ、もう少ししたら。父さんがいたウォールードに向かう。 覚悟は出来ているよ。私も、皆も。クライヴも。

そのやり取りをしてから数週間後だった。 空が今まで見たことも無い覆われ方をし。青空が全く見えなくなった。 バイロンが後ろに尾行がいないかしっかりと確認してから静かに造船所の入り口の扉を閉める。

「集う場所を変えた方が良さそうじゃな…」 商業都市でもあるカンベルも物々しい様子を見せている。 「俺の鼻もやばいニオイを感じます」 「トルガルじゃないんだから…。隠れられるところ、大学に通っていた頃に友だちと遊んでいて見つけた。すぐに地図を描くから、気をつけて」 ああ、それと。 「クライヴからストラスで便りがあって。ジョシュアと会えたっ…てえ!」 「いててて!」 思わず彼らを力強く抱きしめる。 「そうか、そうか…」 ふたりの耳元に涙声が聞こえる。 「バイロンさん…」 「良かった…」

バイロンさんはジョシュアにも会えたら、どうするんですか。 思いっきり抱きしめるさ。その後は見守ろうと思う。 一緒には来ないの? わしにはわしの役割がある。ダルメキアにいる友人にかけ合おう。今起きているのはこの大陸全体の問題だ。 クライヴとジョシュア。兄弟ふたりで小さい頃からそれぞれの役割を果たそうとしていた。

今でもお互いにその誓いにわしの甥っ子達は忠節であるのだ。それをふたりは貫こうとしている。 表舞台でなくとも見守り支えるのも大事なのだよ。

そういう風に割り切れるの、羨ましいです。 ふたりも前途有望だ。わしが保障するぞ。 …照れるな。 ありがとう、おじさん。

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