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1年

・1年をテーマに短めなのを書きました。

・1年 (色んなメンバーで)

その歩みが(クライヴ&ジル)

シドルファスの死から1年が経った。

クライヴとジルには帰る場所が未だない。 お互いがそうした居場所になれれば良いのだという考えはふたりとも抱いていない。何かを知るという行動すら出来ないまま13年間離れ離れとなり、この大陸の真実を知ったのがシドルファスと出会ったちょうど1年前。それまで世界を見ることすらしてこなかったから―出来なかったのだ。 ふたりだけの世界で静かに暮らす、それはシドから告げられた真実と復讐心に囚われ動いていなかったこれまでを考えると出来ない。 歩み出す、動き出す、現実から目を逸らさないで考えながら生きていくーそう決めた以上はもう止まることをしない。 かつてザンブレク皇国から逃れられず望まないまま暗殺部隊の雑兵として領土内をあちこちに連れ出された時に目にしたものも、クライヴの意識の中には入っていなかった。 ジョシュアの敵討ちが出来れば他のこともあとはもうどうだっていいと切り捨ててきた…縋るものがそれしかなかった。 ジルも逃げ出すことも出来ず、手籠められていた少女たちの為に望まないまま剣を振るっていた。少女たちは痛めつけられ、自分はただ人の命を奪うだけの人形だった。心を凍らせて死ぬことだけを考えていた時にクライヴと再び出会いそして共に歩み出すことを決意した。

誰かに触れることも、触れられることももうないのだとお互いにそう思っていたのだ。

少し強い日差しを避けるのと大型の飛行竜魔物との戦いにぶつかったが故に上がった息を落ち着かせようと大きな木陰の元ふたりで座り込んだ。 まだ黒の一帯の影響を受けていない川の水を携えている皮なめしで作られた水袋に汲んでジルに先に勧めた。彼女はそっと微笑んで彼の好意を受け取った。 こうしたちょっとした時でもふたりは肩を寄せたりして寄り添っている。 ジョシュアと3人で過ごしていた子どもの頃とは異なる想いがあるとお互いの中にそうした意識を抱きながら。言葉にはしていない。今はまだお互いの想いを告げる時ではないからだ。向き合うべきものを後回しにはしない。

それでも過酷な戦いと辛い現実が続く毎日の中でこうした僅かであったとしてもこれからもずっと傍にいてある時には手を取り、ある時は身を寄せ合い確かめるようにしている。 再会出来てからずっとお互いに触れ合うことに迷いや戸惑いがない。

ふたりの決意と誓いに対してシドは頷いた。 クライヴはシドルファスの決意を誓いと共に受け継いだ。 ジルは傍にいて彼の過去だけでなくその想いを受け止めることに決めた。 離れ離れとなり止まっていた時が長かった分、時間が掛かる。 それでもこうして共に過ごすのが、このヴァリスゼアの現実に向き合い立ち向かう為にも何よりも大切なひとときなのだ。 「検討をつけている場所がある」 「連れて行って、私も確かめるから」 「心強いな」 ひとりじゃ駄目だった。彼女が返してくれた水入れに口をつけ力強く笑う。感謝と尊敬の意味を込めて彼女に礼を告げる。ジルはそっと手を重ねてきゅっと握ってくれた。 彼女が傍にいてくれることが当たり前だと思ったことは子どもの頃から一度もない。ジョシュアだって同じだ。ここに居ていいのだと彼女を連れ出してそう伝えて、ここに居る意味はお前を守る為なのだと弟に告げて自らを奮い立たせて生きてきた。少年時代は意味そのものを告げるのがクライヴ自身の役目だった。 生きている意味について、もう一度切掛けを与えてくれたのはジルとシドだ。その時からまた考え始めて―今も思考は止めない。 今の糧はふたりが語ってくれたことだ。それがまた変わりつつあると、彼自身も傍にいる彼女もそう感じている。 未だ生き残った者たちの居場所や少しでも安心して眠れる寝床すらない状況ではあるが、かつての拠点で生き残った彼らが僅かながら生きていくことに再び前向きに歩み出す兆しをふたりは感じ取っている。

それは、彼と彼の中から生み出されたものである。

そして、黄昏の時代に人そのものとクリスタルに縋るなら待ち受けるのは死への運命だという現実に向き合わないこのヴァリスゼア大陸に蔓延る認識—この世界の理(ルール)に抗う唯一無二の、もの。

ドミナントと人、そして(ジョシュア&ヨ―テ)

生きている兄をはっきりとこの目にして1年が経った。フェニックス教団の宗主であるジョシュアは彼らにゼメキス時代の遺物に関してタボール近辺だけでなくクライヴがフェニックスゲートへ向かう時に通った漆黒の森にて目にした巨大な門に関して調査をしてもらえないかとシリルに尋ねると。 宗主であるジョシュア様の願いには応えたいものですがあそこは我々の手には負えない気配を感じておりますとそう返された。 シリルのそうした先見の明は頼りになる。そしてそれは己がフェニックスのドミナントであるからこその扱いである。 ロザリアにて王侯貴族に母を含めて取り囲まれていた時も、ロザリアの騎士たちが剣を垂直に突き立て挨拶を送ってくれていた時もそれを感じていた。 ウェイドの様に自分を慕ってくれている彼らのことは良く覚えているが実力でナイトの称号を得た兄の方が兵たちにとって会話の中心だった。 シエルを含め教団の彼らが見ているのはフェニックスのドミナントだ。このことを受け入れてジョシュアは宗主であることを選んだ。身体も弱く、眠りについていた時が長かった自分が動ける手段が必要なのだとそう判断して。教団の彼らにとって必要なのは信条—彼らの価値観の対象であるドミナント。彼らの大半は人やベアラーに関心がない。ドミナントに対しては、その存在による。突如として現れたもう一体の火の召喚獣に対して大いなる執着を―敵意と殺意を向けられていたことをずっとここで感じてきた。フェニックスの力の一部を扱うベアラー兵がいると耳にした時は驚きと心の痛みが同時に沸き起こった。生きていてくれたことが嬉しかったのに、あれほど自分を大切に想ってくれていて優しく支えてくれていた兄のこれまで置かれて来た状況に悲しみが起きた。その悲嘆は続いた。今すぐにでも会いに行きたいという願いは叶わないまま辛く苦しい日々だった。 生き抜いて。会えるまで自分を弟なんだ、人なんだとそう感じさせてくれたあなたのままでいて欲しい。

真実を知りたいとそう思った。辿り着いてから今度は自分が守ると、そう決めた。 理と、兄をこの目にして確信したのだ。現実を告げられても歩み出した自分の核となっていたのはあなたなのだと。

兄のもとにフェニックスの尾が舞い降りた。

ひとつの真実に辿り着けたとしてもそれは一部でしかない。まだあいつは動き出してはいない。 力を使っている為ヨーテが常に気遣ってくれている。ドミナントと宗主である自分に目を向けている彼女と猶予がまだある間にこのヴァリスゼアを見て回ることにした。理が兄を狙う理由はまだ分からない。はっきりした所で果たして立ち向かう為の手段があるのだろうか。モースの書物を携え馬(チョコボ)の支度を整えながらヨ―テに視線を向ける。 (ジョシュア様のお考えは分かっております) 「ヴァリスゼアを見て回りましょう」 「…兄さんたちもそうしているだろうね」 「…会えますでしょうか」 「いや、今は無理だ」 (ごめん、兄さん)

尾を見つめる度にあの人は自分のことを想ってくれている。 (会えなくても、信じているよ。目を覚ました時からずっと) 「行こうか」 「はい」

祝福を送ったあの時と何ら変わらない。分け与えられるのはフェニックスだけなのだ。 離れていても支える。あなたを信じている。

僕の兄さんなのだから。

1年(シドとベネディクタ) ・騎士となって1年後のベネディクタ

シド「酒も覚えたのか」 ベネディクタ「どこぞの騎士団長さんのおかげでね」 シド「今度ワインを奢る」 ベネディクタ「あら、嬉しいわね。ゲルルフたちも一緒でいいのかしら」 シド「たかるなよ。ベネだけだ」 そう呼ばれるようになって、どれくらい経ったのだろうか。 この愛称は自分だけのものだ。 騎士となってからも剣を抜き、厳しい任務—実戦は続いていた。 それでも、こうしてふたりきりで話合うのが大好きなのは変わらない。 シドルファスの語る人らしく最後まで終わりを迎えるときもそう…最後の時まで呼んで欲しい。 人としての歩みを教えてくれたのは他ならないお前なのだから。

シド「負荷は大丈夫なのか」 ベネディクタ「半顕現のコントロールには慣れてきたわよ。騎士団長こそ自分の身を心配した方が良い」 シド「そう遠くない内に互角になるかもな。召喚獣自体の力に差はない」 ベネディクタ「ここから離れるつもりもないわ。訓練に訓練を積むだけ」 バルナバス様と視線を交わすシドルファスはもっと長い付き合いをしてきたのだろうとそう思う。 すぐに、ではなくとも。重ねて行けばもう誰かに捨てられることも売りに出されることもなくなるはずだ。 しっかりと私でいられる。見つめたその視線の意味するものに気づいてシドも軽く笑った。そう易々と他の男の前でそういう顔をするなよ、と。

※バルナバスが本格的に狂う前のふたりのやり取りは厳しい中でもお互いに良くものを言い合える仲だったのだろうと。

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連れて行って

<p>少年期のクライヴ→ジル マヌエの丘へジルを連れて行く前。 ※ 連れて行って ロザリス城からはまだ屋敷の外へ出る許可は降りない身体が弱い弟が好きなように歩き回れる不死鳥の庭園と。それと民の暮らしが見守れる城下町が眺められる。 産まれてすぐに身体が弱いと父親と母親から教えられて。 そして周りの貴族達や侍女達の放つ雰囲気からもジョシュアは屋敷において自室にて本を読むようになり、理解力の早さからジョ

 
 
 
抱擁

<p>ジョシュアとジルを大切に想っているクライヴ。 ※ エルウィン大公の統治下においては慈愛と伝統の国だと奏でられていたロザリア公国—直近まではザンブレク皇国領として神皇后であったアナベラによる圧政により民の生活も苦しくベアラーたちの命も投げ捨てられていた現実を5年前に目の辺りにしてきた第一王子クライヴ・ロズフィールドは青空が広がっていれば人3人にとって強い日差しを避けるのにちょうど良いであろう大

 
 
 
ぽたぽた

<p>ジル→クライヴ ※ フェニックスゲートにてあなたは自分がイフリートのドミナントだった—それが現実であると。あなたが自ら真実を受け入れてから分かったことがある。あなたは私がそういう所は昔から変わっていないなと子どもの頃のような笑顔でそう語った。ああ。今の私に子どもの頃の私を見ているのだと。「いいえ…私は変わったわ」あなただって、ずっと。ベアラーとして望まないまま戦いに連れ出される日々だったはず

 
 
 

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