FF16小ネタ集⑮
- つきんこ
- 3 日前
- 読了時間: 16分
望郷組が多め。拠点メンバーも絡んで。
からっぽの (再会する前のクライヴとジル)
ロザリアにいた時は12歳だった。すでに“ここ”でその年を超え13年目となる。月に寄り添うメティアを見上げなくなったのも同じ。 会えない。どこにいるのかも、生きているのかも分からない。 あの男の命ずるままに剣を振るって、この氷の魔法で、シヴァの力でいったいどれほどの人たちの命を奪ったのだろう。 考えるのもやめたいけれど、それをしてしまったら誰かが殺される。目の前で痛めつけられているというのに。 拘束具を嵌められたまま、また檻から出された。 生きていること自体に、意味はもう、ない。 大好きだったあの日も、その想いも、もうないの。 …違う。無くしたくはないから、心が凍った。からっぽにはしたくないから、そうするしかなかった。 凍らせたまま、シヴァに顕現する。 そうして、終わらせよう。
あの日からあの時の君の年を超え13年目に入る。ザンブレクへと連れて来られたばかりの時に耳に入ったのはロザリスで捕虜にされた首都の女性たちと亡くなった兵と民達。耳を塞げず、ただ、どこでも良い。無事でいてくれ。会えなくて良い。戦いに巻き込まれずに静かに誰かと生きてさえいてくれていれば。そう願っていた。 俺は、もう君には会いに行けないのだから。
ニサへの任務が下された。ダルメキアと鉄王国が衝突し合う。タイタンのドミナントとシヴァのドミナントが投入されるだろうと。目標はシヴァのドミナント。 「鉄王国に女のドミナントが居るって聞いていたけど、まさか本当になあ…」 ビアレスが武器の手入れをしながら、凍らされて死ぬのは勘弁願いたいもんだと悪態までは行かずとも置かれている変わらない環境から苦言を申し出ていた。武器1つとっても上等とはとても言えない。 どうせこれがある限り命令には逆らえないだろうとベアラーとして飛竜草から入れられたひとりひとりの刻印を忌々しそうにティアマトは見渡し。手入れが終わった部隊の者たちがずかずかと出て行って。 鉛のように重い身体を起こし、逆らえない命令にまた俺も連なる。 あいつをこの手にかける機会はまだ巡って来ないのだろうか。 だが、それでも。これは俺が生きている残された意味なのだから。 からっぽになるより、ずっとその方が楽だ。 どこにいるか分からない君に俺はもう会えない。 覚えてくれていたらなどと都合の良いことは考えない。 俺の様に縛られず、戦いにも関わらないで、どこかで生きてさえいてくれれば。 これさえ出来れば、俺はからっぽになるだけだ。君にはもう会えないのだから。
((本当はこれで良いなんて思わない。からっぽになるのが怖いだけ))
・筆跡
※拠点にてクライヴがジョシュアとジルを連れて行く前。
最後の戦いに出向く前にクライヴはなるべく他の協力者たちの所へ石の剣を遣わしたりひとりでモブハントへ向かったりしていた。
(ベンヌ湖の地平線をインビンシブルから見つめながら)ジル「‥‥」 (ジルに気づかれないように軽くため息をついて)ジョシュア(待っているだけでは辛いのだろうな…)「ジル」 ジル「どうしたの、ジョシュア」 ジョシュア「手紙というか…。兄さんが出ている間にちょっと気づいたことを書きとめておこうか。戻って来たらすぐに目を通してもらえるように」 ジル「そうね、そうしましょうか」
(せわしなく戻って来てから)クライヴ「ん?この筆跡は…」 さらさらと書いてからすぐにまた出て行く。
クライヴ様なら、とマードック将軍の甥に教えられて彼の私室にノックして入るふたり。 ジル「クライヴ、戻って来たの?」 ジョシュア「‥‥いないみたいだね。すれ違いかな」 ジル「そう、みたいね…」 (デスクに近づいて)ジョシュア「ジル、見てご覧」 ジル「‥…?」 彼の名前と感謝の言葉が送った紙にさらさらと流れるようなそれでいて力強い筆跡と共に綴られている。
ジョシュア「兄さんの筆跡だ。よく覚えている。ふたりで教師に教えられている間にね、分からないところよくこうした走らせ方をした文字でよく見せてもらっていたんだ」 ジル「私は石の剣の皆に報告書に目を通したと私の方から届けた時に。クライヴの力強い信念が籠っているのだと、そう感じていた」
どんな表情(かお)をしていたのか、すぐに思い出せる。
それは小さい頃共に過ごして来た時からであり。 再会してからずっと傍にいた時からである。
そっとジルが綴られた彼の名前に愛おしく指でなぞる。 ジョシュアは優しく彼女のその姿を見送る。
きっと、クライヴも同じなのだと。 自分達の筆跡とその内容から。ふたりがどんな思いで羽ペンを走らせたのか。伝わっているはずだ。
ジョシュア「ジル」 偶には怒っても良いんだよ。僕はそうしたと話してみても。 柔らかく彼女は微笑むだけで。 受け止めるだけでなく、兄がふたりの想いも受け入れながらそれでも決めたことを曲げたり諦めたりしないのをしっかりと認めジョシュアはジルがクライヴのそうした決意そのものを受け入れて愛しているのだと、ありがとうと感謝の言葉を捧げることにした。
ジルが先に部屋を後にしてからジョシュアはさらさらと綴る。
“ジルを最後まで愛するように”
弟から兄へのメッセージとしてではない。盾として己に誓ったひとりのナイト—男としてその誓いを最後まで果たせるようにと、公主らしい滑らかながら権威のある力強い筆の走らせ方で。
・call (無意識ぽくクライヴ→ジル)
彼は大抵、彼女の名を先に呼ぶ。 「ジル」 そうしてから相棒のトルガル、愛馬であるアンブロシア。 続いてガブやオットーやミド、ネクタール。石の剣の彼ら。そして仲間でありチームである拠点の皆とその名を連ねていく。
彼の生き様でもあり、大切なものを守ると決めた誓いそのものである弟とようやく再会出来て。やっと共に居られるようになってからは。 「ジョシュア、ジル」 そう呼ぶのが常となった。 3人とも歩みを止めることはなく、相棒の狼を引き連れながらベアラーたちの真実を探ろうと石の剣の依頼からある孤児院へ訪れていた。 既に破壊されたマザークリスタルの麓にそびえていたストーンヒル城。 あそこで弟と共に人ならざる者だけが招かれるあの場所へ引きずり込まれた。 退けはしたものの、そこで知った真実は人の業と、このヴァリスゼアを除けば死へ向かっている世界の有り様。 戻って来てから彼女とお互いをしっかりと抱きしめ確かめ合った。
オーディンという主を失った城を眺めながら、もはや黄昏行くだけの王国に対し感傷を抱き。先に足を進めていた弟と彼女に声を掛けた。 「ジル、ジョシュア」 ふたりは変わらずに顔を向け、この墓を調べておこうと彼の向かう方向に足を向ける。ふと弟が止まった。 「僕は先に孤児院の中を調べるよ」 「ひとりでは危険だ。トルガル、頼む」 トルガル、とジョシュアは招き。ジルへそっとアイコンタクトをした。 ジョシュアの意図に気づいた彼女は頷き、そうして彼の元へ。 トルガルはジョシュアと共に中へ向かう。
墓の前でクライヴとジルは静かに彼らの死を悼む。 ベアラーとして暗殺部隊で酷使され、鉄王国にて魔法兵として囚われていた長い年月の間は出来なかったこと。 ふたりで手を取り合いながら、最後まで抗いそしていつかここに報告出来るようになったらまた来ようと決意を固める。
「さっきね…」 「どうした」 「あなたは久しぶりに、私の名前を先に呼んだの」 「そう、か」 「ストーンヒルでのこと、思い出していたのかなって」
—会いたかったわ、クライヴ。 —俺も会いたかった。
別れは再会の喜びをもたらす。
会えなかった長い長い時。 再会してからずっとお互いを、時には表に出さなくても傷つくこともあったけれど。 無意識に、心の中で。時にはその名を声に出して。 あなたそのものを。君がここにいるのだと。
そうして手探りで必死に。確かめ合ってきた。 心の中を見せられなかった。凍っていたから。 それを溶かし、壊したのは他ならぬ彼なのだ。
「…ああ。あそこに飛ばされている間も。ジョシュアと必ず戻ろうと考えていた。 会いたいと」
ジル。そう呼ぶとことんと彼女が寄り掛かってくれて。 その姿だけなら彼女が甘えているように見えて、実のところ甘えているのは己自身だとクライヴは自覚している。 優しくその頭を撫で、感謝を捧げる。
傍にいてくれて。補い合って、そして築き上げたもの。 心から愛するようになったその存在そのものを。 愛おしさを込めてその名を呼ぶのだ。
“ジル、俺は君に会いたかった。生きてくれていて、俺の傍にいてくれて。ありがとう。”
※鉄拳8のDLCのクライヴのセリフ。名を呼ぶ順でジルが先でうっかりときめいて書きました(笑)
届ける(鉄拳の世界に行ったクライヴ)
生きているか分からなかった時。手を掛けられ殺されたと己の無力さを嘆いていた時。 ただ、仇だけは取ってやる。それだけで這いずり回るように生き延びていた。 弟と彼女の名を呼ぶことはしなかった。焚火から火の粉がはぜ。炎を見つめる度に思い起こす日があの日の惨劇だった。バラバラになっていく自分―いや、囚われていただけだ。
(どこだ…ここは) ここがヴァリスゼアではないという思考は働く。 見た事がない建物と男たち、見知らぬ存在。遺物のように青白い光を放つものもいる。 (ジル、ジョシュア…) 離れ離れになったのだろう。ならば行うべきことはただ一つ。 —生き残って必ず帰るのだ。 再会してから共に行動し。誓いを弟と彼女へとそれぞれに立てた。 ロザリアの騎士たちが行う剣を突き立て己の生き様と共に誓いを再び見知らぬ場所でも立てる。炎の民―。 (この身をもって) (不死鳥の盾とならん)
「兄さん…」 まだ離れ離れだったダルメキアにて。理に意識を飲まれそうな兄に必死に呼びかけ。 そしてフェニックスの尾を通して—…守り抜いた。 今も同じ状況なのだろうか。 隣でジルが静かにメティアに祈りを捧げている。涙を流しそうになりながら耐えている。 弟は彼女その横顔を優しく見つめ。そして凛々しく月を見上げた。かつてヨーテに語った通りいまのヴァリスゼアは混沌とした世界でありながら、見失うことはない。 (あの時みたいに声は届けられない)(祈りは届かないのかもしれない) 別の次元、そして別の世界にいるのだろう。それでも。 (あなたに届いている) (あなたから届く) その想いと。誓いそのものが。
・ロマンス ※ロズ兄弟+拠点メンバーにて
マザークリスタルドレイクヘッド破壊から3年後。 ベンヌ湖で見つけた空の文明時代の飛空艇であったであろう乗り物―インビンシブルと名付け。中をジョワロフの意思を受け継いだバードルフや彼の弟子たち。ミドのろ過装置を中心に、ロストウィングであちこち改造もしているカンタンにアドヴァイスを受けながら大部分を新たな拠点として改造してきた。次に取り掛かっているのは石の剣の彼らの訓練だ。 稽古場にても木剣の音が響き合う。
昼が過ぎ少しの休憩の間。 傍に寄り添いながら食事を取っているクライヴとジルをそっと眺めながらオットーがふたりの仲を見守っていた。 オットー(ロザリアではきょうだいみたいに育ってきた仲だとしか言わなかったが…) タルヤ「クライヴはそうかもね。ジルは正直分からない」 オットー「そうなのか?俺には仲間以上のものがあるように見えるが」 タルヤ「私も私の医務室なんだけどとジルが目を覚ましてからすぐに抱きあうもんだから釘を刺したわ。フェニックス・ゲートから帰ってきてからジルはどこか抑え込んでいるように見える。まあ、私たちがとやかく言う事じゃない」 オットー「そうだが…偶にはふたりっきりにもさせてやらんと」 タルヤ「あら、気が利くのね。それを言葉だけじゃなく行動に移してよね」
後の2年後にマザークリスタル破壊の誓いを立てるクライヴとジル。 その時に火急の用で訪ね、ふたりっきりの邪魔をしたみたいですまないと謝るオットーだったが。 その時のジルはまだ因縁を断っておらず冷めており。 鉄王国から戻ってからようやくとなる。 尚、両想いだとはっきり自覚したクライヴとジルの良い雰囲気を邪魔することになったのはガブだが。 この雰囲気をさっぱり把握できていないガブの様子に軽くため息をついた後、出て行くクライヴの後に付いていこうとする彼の後ろ頭を軽くタルヤは小突いてやった。 ガブ「な、なんだよ」 タルヤ「それが分かるようになったら、後でクライヴに謝りなさい」 ガブ「はあ?」
※
ウォールードから帰還してからミドがジョシュアって王子様みたいだねとジルやヴィヴィアン、石の剣のドリスの前でのほほんと話して来た。 ジルはミドののんびりした話し方に特段ジョシュアに対して恋をしている訳ではないと判断し。 ヴィヴィアンはクライヴも彼も貴族の出だとは聞いたことがあったが…とふたりの仕草や話し方を思い返しながら、それぞれの置かれていた立場は違っていたのだろうなと頭の中で整理をし。 ドリスは礼儀正しく“なぜそのように思われたのですか”と尋ねることにした。 「ん?ああ、エンタープライズからウォールードへ送り出す時に手の甲にジョシュアが口づけしてくれたんだ」 あっけらかんとした口調。特段何かを意識したという訳でなく素直にそう思ったから口にしただけなのだろう。 ヴィヴィアンはふむと腕を組み。ドリスは船上においてフェニックスの姿でエンタープライズを守ろうとしたと伺っています。あなたとあなたの創り出した船に敬意を払っておられるのでしょうとふわりと微笑む。 「ね。ジルはクライヴかジョシュアに小さい頃そういう風に口づけされてたの?」 素直さから今度は好奇心へと。ミドがにこにこしながらジルに尋ねる。 「えっと…」 つい最近されたばかりである。 「あ~、でもクライヴってあんまそういうことしなさそうだよね」 「まあ、暴君になりそうな資質があるからな…」 「誓いの時は剣をロザリア式に突き立てるでしょうね」 「‥‥」 ジルがどう答えようか考えている内に。 自分でしっかりと考えられる彼女達はあっという間に結論を下し。 さて自分たちの役目に戻るかとさっと動き出した。 ジルは彼のキスが落とされた手の甲をそっと見つめ。 ふたりだけの誓いを秘密に出来たことに。 そっと優しくそして愛おしい、彼が自分だけに向けた口づけと彼女だけに向けているその想いを自らに秘めたままでいられたことに嬉しいようなくすぐったい気持ちでほっと息を吐いた。
因みに外でジョシュアがそうした挨拶をすると何気なく通りかかった噂好きな彼女達からあっという間に拠点の女性達に広がり。 ジョシュアが寝泊まりしている部屋にさりげなくそれでいて沸き立つように顔を出す女性たちの姿も見られるようになり。 ヨーテがジョシュア様のお身体に差し支えないようにお願い致しますと毅然とした態度できっぱりと跳ねのけ。数日するとそれも大人しくなっていった。
分け合う(クライヴとジル)
温かいものなど、随分と口にしていなかったとクライヴがケネスの食堂にて料理を運ぶ時に声にし、それ以来彼とジルが食堂のテーブルやカウンターつく時には何かしらひとつ以上は温かいメニューが提供された。彼女が過酷な状況に置かれていたことは拘束具や鉄王国のドミナントに対する扱いが暗殺部隊に居る時にも時折各地の紛争から話題に上り。その時はシヴァに関しても北部の生き残りの誰かがロザリアが皇国領内に入った時に連れていかれたのだろうとそう考えていた。ずっと望まない戦いの日々だったのはジルも同じで。 シドの隠れ家を失ってからも、インビンシブルをベンヌ湖にて見つけてからも。 協力者の元で食事をするときや何かしら栄養には重要な野菜と果物を選ぶときもなるべくふたりで揃いながら食事を取った。協力者の元であってもずっと彼らがまとめ上げている村や宿にて世話になり続ける訳にもいかない。マーサの宿にて泊まりや食事を提供してもらうのは避けて軽めの食事を取るためのテーブルだけ少しの間借りることにした。マーサが戦った後の身体をほぐすにはちょうど良いお茶ですと温かいものを出してくれて。 ふたりで礼を告げてからインビンシブルも完成に近づいている、同時に今度保護出来たベアラー達は石化がそれほど進行する前で元気だとそっと告げると。悔しい思いしていたのが前に進めているみたいで嬉しいねとほほ笑んでくれた。 ジルがポーチからモリーが寄越してくれたクッキーを取り出す。ケネスのメニューを引き継ぎながら(そうした訳でシチュー料理が定番である。後にイヴァンが紫色のメニューを開拓するくらいには)ふたりがすぐに出て行こうとするとすりおろしたニンジンを生地に練り込んで朝早くから焼き持たせてくれたのだ。残った皮は設置したばかりの植物園へと持って行って肥料の足しにすると言っていた。買ったばかりの果実もジルが器用に小さなナイフを取り出して剥いてくれた。皮ごと食べられるものだから無駄が出ない。 身体というのは取り入れるものから大きく影響が出るもので。そしてふたりで揃って食事を取るようになってからもうすぐ5年が来ようとしている。生き残った彼らと新たな拠点探しながらベアラー保護と、このヴァリスゼアを見て回ることにした。 それまで出来ていなかったこと。辛く厳しい現実が日々押し寄せていた。助けられなかった命も、沢山ある。 向かい合い静かに食事を取った。しっかりと食べ終わってからまだ温かい飲み物に口をつけ、そしてそっと彼は彼女を見つめた。彼女も両手で木のカップを持ちながら縁に口をつけ温かいものを身体に流し込み。 そして優しく、どこか切なく…はぐらかす心のままー彼の視線に応える。
彼女は、未だ本心を彼に伝えようとしていない。 それでも、送られるその視線から注がれてくるもの…それらを受け止めていく。 5年少し前まではもう失われていったのだとさえ…心の中の望みさえ押し込み願いを止めて。自らを凍らせていたその奥底で。温かい、と感じられるのはこのお茶のおかげだけではない。 また、辛い現実を目にして戦いには出る。 まだ、彼の想いを受け入れるというのは、出来ていない。出来ない。 それでも、心で感じられているとそう何かが新しく…再び、なのだろうか。 目覚めているのだとこの5年という時が経ってそう考えられるようになってきた。 さきほどの果実のように、幾度となく何かを手にする度、見つける度に分け合い。そうしてお互いがちゃんと傍にいるのだと確かめ合っても来た。 クライヴの険しかった目つきはだんだんと変わり目の前で起きているあらゆる事柄を受け入れながら、優しいものへとなった。傷ついたとしても、人へ…誰かに愛を示すことは忘れなかった。傍らにいる自分が本当に確かに、それを感じられるはずなのに。 ことりと彼女と彼が木のカップを置き、彼の右の手が彼女の右手の甲に触れる。 何かを告げる訳ではない。そっと触れてまっすぐに見つめると静かに頷いてくれた。 彼女も静かに頷く。
大丈夫だ、無理はしなくて良い。 そうした当たり前のことが言える世界ではこのヴァリスゼアはないのだ。
だからこそ、痛みも苦しみもある。 そして、大切な想いをお互いに分け合いたいと。 (まだ…出来ないの) それでも支えてくれている彼女に感謝していると彼はしっかりと言葉にし。 お茶のお変わりは大丈夫ですかとウェイトレスが近づいてくる前に立ち上がり、世話になった、また来るさ(ストラスを飛ばし連絡するという意味である)と礼を伝え出て行く。
外で待っていたトルガルが近づいて来た。ぽんぽんと頭を撫でてから一旦戻って体制を整えようと振り返り彼女に伝える。 明日はまた厳しい戦いである。彼女も覚悟と共にしっかりと頷いた。 彼が先に進み出て、気づかれないように己の右手を眺めた。
傍に居て、分け合って、そうしてー。 いつか、そう、受け入れらえるように。
凛とした歩き方で彼と相棒の後を追っていく。次に目指すのは、ダルメキア共和国。 罠だと分かっていても、歩みを止めない彼の為にも。 分け合い、支えて…補えるように。
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