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if(もし…)part.3

出立前の夜。ディオンとテランスも少々。

主にはクライヴとジョシュアのやり取り。身体が弱い自分を守ろうとしてくれる兄のことを尊敬すると共に一緒に行きたいことは口には出さない弟。 本編のフェニックスゲートのふたりのやり取りのオマージュです。

If(もし…)part.3

ロザリアの玉座の間から階段を上って2階にあるひと部屋がクライヴの私室だ。 部屋の中は侍女たちがよく世話をしてくれるから、ではなく元から整っていた。 第二王子であるジョシュアも同じだ。ジョシュアの部屋は兄に対し書物が積み重なっているが物心つく頃から実学を教えられていたクライヴも空の文明時代―数多くの神話が眠るこのヴァリスゼア大陸にとって特に人々にとって語り草となっているゼメキス時代の戦いを興奮しながら嗜んでいた。 真直ぐ進むと不死鳥の庭園とロザリス城を囲む城壁が目に入る。王侯貴族として、そして炎の民であるロザリアの人々を守る使命故に受け継がれて来たフェニックスのドミナントがここにいるのだと示す為の。 月と雲一つないその明かりを自分の部屋のバルコニーから見つめた。月は完璧に満ちていて。醜い争いと血生臭い戦ばかりの歴史を重ねて来たこのヴァリスゼアにとって誰に対しても同じ様に輝き彼らを見守っている。隣にメティアと呼ばれる赤い星が寄り添う。祈ると願いが叶うのだ。 陰ると願いは叶わなかったと彼らは口を揃えて嘆く。 「兄さん」 バルコニーに座り込みながら月を眺めていると部屋に訪れて来た弟が静かに声を掛ける。 気配には既に気づいていたのですとっと降り立ち。どうしたのかと優しく尋ねた。 「明日早くに出立するのでしょう」 ジョシュアの前にしゃがみ込む。少し前までは肩にも優しく手を置いてやり。言い聞かせるような恰好をとったものだったが。今は真直ぐに弟を見つめ。そしてお互いの使命をしっかりと受け入れながら進むのだと—それは暗黙の了解ではない—誓いそのものである道を歩んで行くのだと公子と騎士として。そして兄と弟として互いの眼差しを交わす度にその決意を交わしていた。 「ああ。それほど長い日数じゃない。すぐに戻る。フェニックスゲートへ向かう前にナイトとしてお前を守る為に」 「心配していないよ。兄さんは負けたりしない」 今日の稽古にてトルガルに明るく少年らしい元気な口調で話していたのとは違う。強い信頼がここにある。フェニックスの祝福―リジュヴァネーションと呼ばれる。フェニックスのドミナントを盾として守護する為のナイトたちに分け与えられる力。 それが出来るのはフェニックスのドミナントのみだ。

他のドミナント—すなわち噂されている氷のシヴァ。 ザンブレク皇国が誇る光のバハムート。 5つの州が連なるダルメキア共和国においては土のタイタン。 知を司る雷のラムウ。風のガルーダ。そして前身の王国であったヴェルダーマルクを墜とし新たな国を興した源となった闇のオーディン。共に戦場を駆けるのはスレイプニルと呼称される馬である。その3つは灰の大陸を統一したウォールード王国が有している。 そしてもはや伝承でしか語られない水のリヴァイアサン。

そのいずれも他者の為に力を分け与えることは出来ない。

たったひとり。ジョシュアだけなのだ。

(貴方にはジョシュア様が—…) 「…離れることになってもお前が俺を支えてくれている」 弟が産まれて母からは完全に見放され。母を取り巻く王侯貴族たちにはロザリスにおいて無駄飯食いだとさえ囁かれて冷たい態度で扱われて来た。 そんな俺がここに居る意味はお前を守る為なのだと。兄は同じ青い瞳を有する弟へ言葉には託さない絆をその眼差しで語る。クライヴの真剣な想いにジョシュアはしっかりと頷いた。 「…うん」 少し幼さを含めたその返しは。弟が普通の少年であり。そして皆にあてにされているのがフェニックスを宿しているからなんだと。そう、分かる。伝わってくる。 もっと僕が…身体が強かったら。トルガルを連れて。アンブロシアにまたがる兄の後を同じように馬(チョコボ)にまたがってその後にしっかりと付いていって。一緒に好きなように旅が出来るのに。 年月を跨ぐ度に実力をつけていく兄と同じ様にたった一度切りの会合を果たした“彼”に対しても顔を合わせたあの瞬間に相応しい器とは。そうまざまざと感じたそのことを思い出していた。

同刻。 同じく王侯貴族を有し、そして隣国であり同盟国でもあるザンブレク皇国。 72の光の神々をまとめる女神グエリゴールを唯一神として崇拝する宗教国家である。 そうした歴史と文化を包含するこの国では大多数の優秀な貴族が国教に関する修道院付属学校に通う。 修道院内―。携帯型のクリスタルから火を灯された蝋燭だけが灯る小さな部屋にて。 「…君がその手にするのは槍ではなく、片手剣であると。それで間違いはないか?」 修道院にて彼らの教師であるひとりの男が齢12となったひとりの少年に—名はテランス。小さなテーブルを挟んで向かい合い彼の所属を確認していた。 「はい。ディオン様の側近としてお仕えし続けると既に決めました」 中流貴族として産まれ。幼なじみとして共に育ち。そして共に—文武両道の神童だと称されるディオン・ルサージュ。有数の貴族のひとりであるシルヴェストル・ルサージュの第一子 と“表向き”は知られている—学んできたテランスはこの度ディオンの正式な従者として任命された。 「ザンブレク皇国ではグエリゴール教の慣わしに従い殆どの者が槍であるが…例外がない訳ではない。君も大変優秀だ。分かった、良いだろう。ルサージュ卿にも確認は取れている。この国の為に戦うのだ。全ては光の神グエリゴールの元に」 ヴァリスゼアに存在する神からの祝福であるマザークリスタルは全てグエリゴールを中心としたドレイク神話に基づく名称をつけられている。

幾度となく所有権を巡って来たロザリア公国と鉄王国はドレイクブレス。 竜の息である。

ザンブレク皇国はドレイクヘッド。 竜の頭である。

ダルメキア共和国はドレイクファング。 竜の牙である。

ウォールード王国はドレイクスパイン。 竜の脊髄である。

そして不可侵条約が取り決められているクリスタル自治領においてはドレイクテイル。 竜の尾である。

それぞれが勇ましく正義と復讐の女神でもあるグエリゴールが跨った竜の神話から取られているのだ。その証拠にザンブレク皇国にてあちこちに設立されている教会のグエリゴール女神像は背後に太陽を称え。そして足元に竜を纏わせている。 かつては北部地方にドレイクアイ(竜の瞳)、灰の大陸にはドレイクホーン(竜の角)が存在していたがエーテルの枯渇と共に消滅した。エーテルが完全に枯れ果てた死の大地、黒の一帯と化したのだ。

例外はマザークリスタルゼメキス。クライヴが嗜んでいた書物に存在し。 そして現在はゼメキス大瀑布として知られるひとつの神話の舞台が終わったそこはダルメキア共和国にある。

「テランス」 修道院内に置いて自分の割り当てられた部屋に戻ろうとした彼に長い廊下と連なる柱に寄り掛かりながら待っていたディオンが声を掛けた。 「ディオン様。私が正式な従者となれたのもディオン様の後押しがあったからこそ。御礼を申し上げます」 「礼を言うのは余の方だ。他の誰よりも、テランスで良かった」 優しく微笑み優しい口調で礼を告げる。 「この身に余る光栄です」 この方の僅かであってもお気を休ませられる存在になれたら。慰めとなれれば。その一心で剣の道を選んだのだ。 月明かりが長い廊下に連なる窓から床に差す。 ディオンが月を見つめる。テランスはその横顔を見つめた。 (ああ…) 同い年であり、幼なじみであるディオンにはこうして近くで。その道を歩むのだと選び取りお側でお仕えするのだと固く決心していたとしても。 やはり、その孤独を。渇きを癒してはやれないとこうした時にテランスはまざまざと感じさせられた。 3国同盟―ロザリア・ザンブレク・ダルメキアの貴族たちだけの交流会において一度だけ出会ったその時は齢9つのロザリアの公子も話してくれた事があった。 父君に愛されているのだな—。 後にも先にも口にはしなかったたったそのひと言。 他のことはよく教えてくれた。この国と他国の貴族たちの繋がりと。父上であるシルヴェストルに対して同盟国であるロザリア公国の王妃アナベラと親しく談笑している様子を見たぞと語る者がまさか他国の王妃には手を出すまいと下世話な噂を広めようとしていたのを思いっきりキッと睨みつけて黙らせてやったとか。 その同い年の少年は同じく国を背負うドミナント同士でもあった。そのことをディオンはテランスに告げなかった。 (私では決して辿り着けない) それでも、側近としてお側にて最後までお仕えするのだというこの意思は変わらない。

風が吹いて来て。少しジョシュアが身を震わせた。 「寒いのか、もう夜も遅い。お前の身体に障るといけない。俺も出立は夜が明ける前だ。休もう」 「そうだね…。気をつけて兄さん」 こうした素直な、それでいて寂しそうな気配を感じるとここにいるのは“弟”なのだとクライヴは心から感じる。アナベラと取り巻きに連れていかれて振り返ったあの時の表情(かお)もそうだった。 そしてそれこそがジョシュアがクライヴを最も信頼している核(りゆう)なのだ。 兄さんのそばでなら。僕はドミナントではなく、人でいられる。 「…帰って来たら。お前が本の中でしか知らなかったものを。俺の目線にはなるが話そう」 「本当?うん、楽しみにしている」 お互いに口角を上げて笑い合い。そうしてジョシュアはお休み兄さんと挨拶を済ませて自分の部屋へと戻って行った。 クライヴは再び月を見つめた。隣にある赤いメティアに祈ったことはジョシュアも自分も一度もない。それをしたところで—兄が受け継ぐべきだったという燻った想いも。多くを担っている弟に代わってやるのも出来ないと兄弟そろって現実を分かっていたから。 ロザリアの民の誰かが自分たちの為に祈ってくれているのだろう。 それが分かればもう十分だ。 ふとテラスの下から気配を感じたので視線をそちらに落とせば。 トルガルが尻尾を振りながら闇の中金色の瞳を輝かせてこちらを見ていた。軽く手を上げて明日は一緒だぞと合図を送る。トルガルは頷きそして馬(チョコボ)たちが寝泊まりしている厨舎へと向かったのかサッと去って行った。

決して気を緩めたり出来ないがそれでもトルガルが一緒に来てくれるというのが何だか嬉しかった。

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if(もし…)part.2

<p>ここから本編と話が変わって行きます。 Part.2 ヴァリスゼアの人々にとってクリスタルを用いてもたらされる“魔法”は祝福である。そして恩恵をもたらすマザークリスタルは加護なのだ。それが“人”に与えられた理であり常識である。この大陸に敷かれた理(ルール)だ。例外は存在する。ドミナントと呼ばれる召喚獣をその身に降ろせる存在とベアラーと呼ばれるクリスタルを介さずに魔法を使える“道具”。各国によっ

 
 
 
if(もし…)part.1

<p>Part1 時は大陸歴862年―。 ヴァリスゼアと呼ばれる大陸は大きく分けてふたつである。風の大陸と灰の大陸だ。 灰の大陸がウォールード王国と呼ばれるひとつの国が統治を行なっているのに対し、風の大陸はかつて3国同盟が存在しており3つの国家とひとつの独立した商業都市が主である。 その中で慈愛と伝統の国と呼ばれるロザリア公国。国の統治は大公と呼ばれる貴族階級の中でふたりの王子がそこにいた。重たい

 
 
 
if(もし)…設定

<p>FF16のもしもの話。ジルが少女時代にクライヴやジョシュアと過ごして居なかったら。※DLCの内容・設定は含んでおりません。 ※軽く設定情勢に関して 北部地方がまだすべて黒の一帯に呑み込まれていない。・ジョシュアは変わらずフェニックスのドミナントである。・クライヴは何も覚醒しておらず、変わらずジョシュアのナイト。根本的な性格は兄弟共に同じ。お互いを大事に尊敬しあっている。・本編ではフェニックス

 
 
 

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