煩わしい
- つきんこ
- 3 日前
- 読了時間: 3分
Nevaを制作したチームの前作、GIRIS。 ゲーム概要→https://store.playstation.com/ja-jp/concept/234650
心に傷を負った女性のあるひとりごち。
煩わしい
・煩わしい(GIRIS)
この世界が現実でないのはわたしだって分かっている。 目にする石像も美しい彫刻ではなく傷んでいるものばかりで。ひび割れそれを補修するものなどいない。嘆いている女性の像。それを聞いてくれるものなどこの世界にはいない。 砂嵐はドレスを鉛のように重たいものに“変えて”。それで乗り切れたかと思えば今度はうるさい—また煩わしいのがわたしの後についてきた。
身体は四角。足は針の様に細い。そして頭に発芽したばかりの芽を携えたいきものが“わたしの”後ろでキュイキュイとわめく。
ああ、煩わしい。
…どうせ前に進むしかないんだ。人生なんてそんなもの。 目の前の木にりんごがぶら下がっている。 いきものはそれを目にしてさらにわめく。ドスンと鉛の重りのようなドレス姿で落としてやった。
ひとつめ。わめいている。 ふたつめ。まだわめいている。 みっつめ。ああ、ようやく静かになった。
わたしは別に空腹は感じない。この世界にいつまでもいるつもりもない。 …いるべきでないって分かっている。 前に小走りでもういいでしょうと置いていくつもりで進んでいくと土の壁にぶつかった。
行き止まりか。 わたしの人生はいつもこうだ。
ふとふりむくと例のいきものはついて来ていた。 わめかなくなったから気づかなかった。
わたしが何を言うまでもなくその土の壁を掘り始めた。小さな手でいっしょうけんめいに。 細い足で四角い体を踏ん張って支えて。
穴が出来て通れるようになり。そうして道が開かれた。 いきものは振り返ってわたしを見た—見てはいたと思う。 目がどこにあるのかさっぱりわからないからそう思うしかないのだ。
まだ、“わたし”に会えていないよね。 さあ、行って。
多分わたしはぶすっとした顔はしていたと思う。
—お腹いっぱいになったのよね、じゃあ良かったわね。
それだけ私の心の中で告げると。いきものは去って行った。 振り返って小さな—…声に出してはいなかったと思う、そっと告げた。
ありがとう。
高い場所へ向かう為に思いっきり跳んでみた。 この世界を赤に染めたときと同じくあの星座を見上げる為に。
不思議とさっきよりは体が、心が、軽い。
お腹いっぱいになる感覚はもうあまり覚えていない。ぼんやりとしている。 ただ、どこか温かくそして心がいっぱいになっているのではとじわじわと“わたし”の中に巡るくすぐったさに驚きそして戸惑っていた。
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